『The Essence of Winning and Losing』入門|最終OODA図に凝縮されたボイドの思想

ジョン・ボイドの原典には、200枚近いスライドからなる『Patterns of Conflict』や、科学・工学・技術と認識の関係を扱う『Conceptual Spiral』がある。

それに対して、『The Essence of Winning and Losing』はきわめて短い。現在広く参照されている版では、本文の中心は4つの主要な命題、OODA「ループ」図、その図に付された2つの洞察、そして「Illumination」と題された結論から構成されている。

本記事は、この資料から独自の理論を展開するものではない。資料がどのような順序で構成され、各部分で何が述べられているのかを、原典に沿って案内する記事である。

原文を日本語で通して読みたい場合は、別記事「『The Essence of Winning and Losing』全文日本語訳」を参照してほしい。

『The Essence of Winning and Losing』とは

題名は「勝利と敗北の本質」と訳すことができる。

現在公開されている2010年版の編集者注記によれば、最初の版には1995年6月28日の日付があり、最後の版は1996年1月ごろに現れたとされる。ボイドが亡くなる約1年前まで手が加えられていた資料である。

同じ注記では、この資料はボイドのブリーフィングの中で、当初からPowerPointで作成された唯一のものと説明されている。その後、ウェブ上でHTML形式により公開され、現在の版はその内容をPowerPointとして再構成したものである。

資料の中心部分は短いが、そこにはボイドが長年扱ってきた認識、分析と統合、行動、環境との相互作用が圧縮されている。

資料全体の構成

  1. Key Statements 4つの主要な命題と、その言い換え
  2. 主要な命題同士の関係を図で明確にするという導入
  3. The OODA “Loop” Sketch OODA「ループ」図
  4. Insights 図を読むための2つの洞察
  5. Illumination 資料全体をまとめる結論

この順序が重要である。最終OODA図だけが独立して提示されているのではない。図の前に主要な命題があり、図の中にその相互関係が示され、図の後に読み方と結論が置かれている。

Key Statements 4つの主要な命題

最初のページでは、すべて「〜がなければ」という否定形で4つの命題が提示される。以下は、その内容を簡潔に要約したものである。

第1の命題 暗黙のレパートリーは過去から形成される

遺伝的遺産、文化的伝統、過去の経験がなければ、人は、以前に経験した環境と変化によって形づくられた心身の技能の暗黙的なレパートリーを持つことができない、と述べられる。

ここで挙げられた遺伝的遺産、文化的伝統、過去の経験は、後に示されるOODA図のOrient内部に配置されている。

第2の命題 未知の変化には分析と統合が必要である

複数の領域、または競合・独立する複数の情報経路を横断した分析と統合がなければ、未知の現象や予期しない変化に対処するための新しいレパートリーを発展させることはできない、と述べられる。

最終図では「Analyses & Synthesis」がOrient内部の一要素として描かれている。

第3の命題 分析と統合を支える相互参照

投射、共感、関連づけ、棄却からなる、多面的で暗黙的な相互参照過程がなければ、分析と統合そのものを行うことができない、と述べられる。

ここで重要なのは、この相互参照がOrientの一部分だけに限定されていないことである。後に示されるInsightsでは、OODA「ループ」全体がこの継続的な相互参照過程であると説明される。

第4の命題 OODAループが感知・観察・決定・行動をつなぐ

OODAループがなければ、情報を感知し、観察し、前述の過程に必要な情報を集めることも、それらに沿って決定し、行動を実行することもできない、と述べられる。

4つ目の命題によって、遺伝、文化、経験、分析と統合、暗黙的な相互参照が、感知・観察・決定・行動と結びつけられる。

4つの命題を言い換えた一文

4つの命題の後に、ボイドは「別の言い方をすれば」と続ける。

以上のすべてを包含するOODAループと、他者のOODAループ、あるいは他の環境の内側に入り込む能力がなければ、不確実で、絶えず変化し、予測不可能な、展開し進化する現実を理解し、形づくり、それに適応し、さらにその現実によって自らも形づくられることは不可能になる。

これは4つの命題をまとめ直した文章である。ここでは、OODAループが単独の個人内部だけで完結するものとしてではなく、他者や環境との相互作用を含むものとして表現されている。

主要な命題をOODA図で示す

次のページには、「これらの命題とその相互作用を、以下の図によってさらに明確にできる」とだけ記されている。

その直後に、ボイドの最終OODA図が置かれる。したがって、この図は4つの語を順番に並べた手順図ではなく、直前に提示された主要な命題同士の関係を視覚化した図として読む必要がある。

ジョン・ボイドのOODAループ最終図
The OODA “Loop” Sketch
ジョン・ボイドのOODAループ最終図の日本語版
OODA「ループ」図の日本語版

図には、Observe、Orient、Decide、Actだけでなく、次の要素が示されている。

  • 展開する状況と外部情報
  • 環境との継続的な相互作用
  • Orient内部の遺伝的遺産、文化的伝統、過去の経験、新情報、分析と統合
  • フィードフォワードとフィードバック
  • 暗黙の指導・統制
  • Decision(Hypothesis)とAction(Test)

各線や矢印の詳細は、別記事「OODAループ最終図の読み方」で扱う。本記事で確認すべきなのは、主要な命題に現れた要素が、一枚の図の中で相互に結びつけられていることである。

Insights 図に付された2つの洞察

図には、読み方を示す2つの文章が付されている。

Orientは観察・決定・行動を形づくる

第一の洞察では、OrientがObservationを形づくり、Decisionを形づくり、Actionを形づくると説明される。同時に、Orient自身もフィードバックや、感知・観察の窓へ入ってくる他の現象によって形づくられる。

この文章は、OrientがObserveの後にだけ働く一工程ではないことを示している。図ではOrientからObservation、Decision、Actionへ影響が及び、環境からのフィードバックが再びOrientへ戻る。

相互参照は「ループ」全体で続いている

第二の洞察では、Orientだけでなく、「ループ」全体が、投射、共感、関連づけ、棄却からなる、継続的で多面的な暗黙の相互参照過程であると説明される。

これはKey Statementsの第3の命題を、図全体の読み方として改めて示したものである。

Illumination 最後に置かれた結論

図とInsightsの後には、「Illumination」と題された一文が置かれている。

これらすべてを統合して考えると、主要な命題、OODAループの図、そして関連する洞察は、自己組織化、創発、自然選択からなる、進化し続け、終わりが定められておらず、平衡状態から遠く離れた過程を表していることがわかる。

この一文が資料の結論である。ボイドは、主要な命題、図、Insightsを別々の説明として終わらせず、それら全体が一つの過程を表しているとまとめている。

ただし、この短い資料だけでは、自己組織化、創発、自然選択の各概念について詳しい説明は行われていない。原典入門記事としては、ボイドが資料全体をこれらの語によって総括していることを確認するにとどめる。

この資料が伝えていること

『The Essence of Winning and Losing』の内容は、次のように整理できる。

  1. 遺伝的遺産、文化的伝統、過去の経験は、暗黙の心身の技能を形成する
  2. 未知の現象や予期しない変化に対応するには、複数領域を横断する分析と統合が必要である
  3. 分析と統合は、投射、共感、関連づけ、棄却からなる暗黙の相互参照によって支えられる
  4. OODAループは、感知・観察・決定・行動を、前述の過程と結びつける
  5. Orientは観察・決定・行動を形づくり、同時に環境からのフィードバックによって形づくられる
  6. これらの全体は、自己組織化、創発、自然選択を伴う、開放的で進化し続ける過程としてまとめられる

この資料の役割は、OODAを日常でどう使うかを説明することではない。ボイドがOODAループを最終的にどのような要素と関係からなるものとして示したのかを確認するための資料である。

原典を読む際の注意点

最終図だけを切り離さない

図はKey Statementsの後に置かれ、InsightsとIlluminationへ続く。図だけを見るのではなく、前後の文章と一体として読む必要がある。

資料に書かれていない説明を混ぜない

DecisionがHypothesis、ActionがTestと表記されていることは図から確認できる。しかし、この資料の本文には、その意味を展開した長い解説はない。詳細な解釈は、他のボイド資料や研究を参照する別記事で扱うべきである。

2010年版と原初の版を区別する

現在参照しやすいPDFは、1995年から1996年に公開された内容を、2010年に編集・デザインした版である。表紙と編集者注記は2010年版に付されたものであり、ボイド本人の本文とは区別して読む必要がある。

全文日本語訳

Key Statements、図の用語、Insights、Illuminationを原典の順序で読みたい場合は、次の記事を参照してほしい。

内部リンク:『The Essence of Winning and Losing』全文日本語訳|ジョン・ボイド原典資料

原典情報

  • John R. Boyd, The Essence of Winning and Losing
  • 初版の日付:1995年6月28日
  • 最終版:1996年1月ごろとされる
  • 参照版:Chet Richards、Chuck Spinney編集、Ginger Richards制作・デザイン、2010年8月

内部リンク候補

  • 『The Essence of Winning and Losing』全文日本語訳
  • OODAループ最終図の読み方
  • 『Destruction and Creation』入門
  • 『Conceptual Spiral』入門
  • ジョン・ボイドとは誰か