本記事は、ジョン・ボイドの『The Essence of Winning and Losing』を、原典の順序に沿って日本語訳したものである。
この資料の背景、構成、各部分の位置づけを先に確認したい場合は、「『The Essence of Winning and Losing』入門|ボイドが最終OODA図にまとめたもの」を参照してほしい。
翻訳方針
- 本文は、現在公開されている2010年版の英語表記を基準とする
- 原文の否定形、列挙、強調関係をできる限り維持する
- 図中の語は、日本語版の図と対応する訳語を用いる
- 訳文と補足説明を混同しないよう、補足は「訳注」として分ける
勝利と敗北の本質
ジョン・R・ボイド
この版については、最終ページを参照。
編集:チェット・リチャーズ、チャック・スピニー
制作・デザイン:ジンジャー・リチャーズ
2010年8月
主要な命題
- 遺伝的遺産、文化的伝統、過去の経験がなければ、私たちは、以前に経験した環境とその変化によって形づくられた、心身の技能の暗黙的なレパートリーを持つことができない。
- さまざまな領域にまたがる分析と統合、あるいは競合・独立するさまざまな情報経路にまたがる分析と統合がなければ、未知の現象や予期しない変化に対処するための新しいレパートリーを発展させることはできない。
- 投射、共感、関連づけ、棄却からなる、多面的で暗黙的な相互参照過程がなければ――それら多くの異なる領域または情報経路を横断する過程がなければ――私たちは分析と統合を行うことさえできない。
- OODAループがなければ、私たちは感知し、したがって観察し、それによって前述の過程に必要なさまざまな情報を収集することも、それらの過程に従って決定し、行動を実行することもできない。
別の言い方をすれば、次のようになる。
以上のすべてを包含するOODAループと、他者のOODAループ、あるいは他の環境の内側に入り込む能力がなければ、私たちは、不確実で、絶えず変化し、予測不可能な、展開し進化する現実を理解し、形づくり、それに適応し、さらにその現実によって自らも形づくられることが不可能になる。
1
主要な命題とその相互作用
これらの命題と、その相互作用は、次の図によってさらに明確にすることができる。
2
OODA「ループ」図


図中用語の対訳
| 原文 | 日本語訳 |
|---|---|
| Observe | 観察 |
| Orient | 情勢判断 |
| Decide | 決定 |
| Act | 行動 |
| Observations | 観察 |
| Unfolding Circumstances | 展開する状況 |
| Outside Information | 外部情報 |
| Unfolding Interaction With Environment | 環境との展開する相互作用 |
| Implicit Guidance & Control | 暗黙の指導・統制 |
| Feed Forward | フィードフォワード |
| Feedback | フィードバック |
| Cultural Traditions | 文化的伝統 |
| Genetic Heritage | 遺伝的遺産 |
| New Information | 新情報 |
| Previous Experience | 過去の経験 |
| Analyses & Synthesis | 分析と統合 |
| Decision(Hypothesis) | 決定(仮説) |
| Action(Test) | 行動(テスト) |
洞察
OrientがObservationを形づくり、Decisionを形づくり、Actionを形づくること、そして今度は、感知または観察の窓へ入ってくるフィードバックや他の現象によってOrientが形づくられることに注目せよ。
また、Orientだけではなく、「ループ」全体が、投射、共感、関連づけ、棄却からなる、継続的で多面的な暗黙の相互参照過程であることにも注目せよ。
3
啓示
これらすべてを統合して考えると、主要な命題、OODAループの図、そして関連する洞察は、自己組織化、創発、自然選択からなる、進化し続け、終わりが定められておらず、平衡状態から遠く離れた過程を表していることがわかる。
4
この版について
この版の『The Essence of Winning and Losing』は、現在は閉鎖されているウェブサイトbelisarius.comに、長年HTML形式で掲載されていた版をPowerPointとして再構成したものである。
最初の版には「1995年6月28日」という日付があり、最後の版はボイド大佐が亡くなる1年余り前の1996年1月ごろに現れた。
これは、当初からPowerPointで作成されたボイドのブリーフィングとしては唯一のものであり、その後、HTMLのフレームセットとしてウェブ上に公開された。
ジョン・ボイドの伝記を読んだことがあれば、このブリーフィングが「the big crunch」と呼ばれているのを見たことがあるかもしれない。この仕事を深く理解すれば、ボイドの本質を理解することになる。
編集者について
チャック・スピニーは、空軍および国防長官府におけるボイドの同僚であり、『Organic Design』のすべての版に参加した。著書に『Defense Facts of Life』があり、多数の論文や論説を執筆している。
チェット・リチャーズは、ボイド大佐の最初の論文『Destruction and Creation』、『Patterns of Conflict』の複数の版、そしてボイド晩年のビジネスへの応用に関して、ボイドと共同で作業した。空軍大佐として退役し、ボイドの概念をビジネスへ応用した『Certain to Win』を著している。
ジンジャー・リチャーズはKettle Creek Corporationの共同所有者兼社長であり、ボイドのすべてのブリーフィングのPowerPoint版のレイアウトを制作した。
米国ジョージア州アトランタ
2010年8月
訳注
psychophysical skills
本記事では「心身の技能」と訳した。psycho-physicalは、精神面と身体面を分離せずに含む表現である。
repertoire
状況に応じて使用できる技能、反応、行動などの持ち合わせを指す。本記事では原語の範囲を保つため「レパートリー」とした。
projection
「投射」と訳した。現在の情報や自己の認識をもとに、先の展開や他者の行動を見通す働きを含み得るが、本文では語のみが列挙され、詳しい定義は示されていない。
correlation
複数の情報や現象の関係を見いだす働きとして「関連づけ」と訳した。
rejection
適合しない情報、関係、説明などを退ける意味を含むため「棄却」と訳した。
get inside other OODA loops
直訳に近い形で「他者のOODAループの内側に入り込む」とした。この資料内には、その方法についての詳しい説明はない。
unfolding evolving reality
固定された対象ではなく、展開しながら変化している現実を表すため「展開し進化する現実」とした。
orientation
図の日本語版では、サイト内の基本訳に合わせて「情勢判断」とした。ただし、Orientは単なる判断行為だけでなく、遺伝的遺産、文化的伝統、過去の経験、新情報、分析と統合を含む領域として描かれている。
far-from-equilibrium
「平衡状態から遠く離れた」と訳した。原典では、この用語の科学的背景について詳しい説明は行われていない。
Illumination
本記事では「啓示」とした。「解明」「照明」と訳すこともできるが、ここでは主要な命題、図、洞察を統合した結果として見えてくる結論を示す見出しである。
原典情報
- John R. Boyd, The Essence of Winning and Losing
- 初版の日付:1995年6月28日
- 参照版:Chet Richards、Chuck Spinney編集、Ginger Richards制作・デザイン、2010年8月
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