デザインは認知への攻撃である

デザインと聞くと、色、形、写真など、見た目を美しくする作業を思い浮かべるかもしれません。

しかし、デザインが決めるのは見た目だけではありません。

何が最初に目へ入り、どの情報が重要に見え、どの選択肢を選びやすく、どの行動を取りやすいか。デザインは、Observe、Orient、Decide、Actのすべてへ働きかけます。

本記事では、この力を「認知への攻撃」と呼びます。

強い言葉ですが、すべてのデザインが悪意を持つという意味ではありません。ここでいう攻撃とは、人の注意、意味づけ、選択へ外側から働きかけることです。その力は、分かりやすく安全な選択を助けるためにも、望まない選択へ誘導するためにも使えます。

なぜ「認知への攻撃」と呼ぶのか

私たちは、目の前にある選択肢を完全に中立な状態で見ているわけではありません。

例えば、二つの申込みボタンがあるとします。

  • 一方は大きく、明るい色で、画面の中央にある
  • もう一方は小さく、薄い色で、長い説明の下にある

選択肢が二つ存在していても、気づきやすさと押しやすさは同じではありません。

この差は、利用者が考える前から始まっています。表示された瞬間にObserveの範囲を変え、次に「どちらが普通か」「どちらが推奨されているか」というOrientを作ります。

デザインは、命令せずに行動の方向を変えられます。だからこそ、その力を見落とさないために強い比喩を使います。

デザインはObserveを選ぶ

画面、紙面、売場、標識には、物理的な限界があります。すべてを同じ大きさで、同じ場所へ置くことはできません。

そのため、デザインは必ず選びます。

  • 何を大きくするか
  • どの色を使うか
  • 何を先に見せるか
  • 何を折りたたむか
  • いつ通知するか
  • 何を初期画面から外すか

目立つものは観察されやすく、隠れたものは存在していても観察されにくくなります。

利用規約の重要な条件が長い文章の奥にあれば、「書いてある」ことと「利用者が気づける」ことの間に差が生まれます。

前の記事で説明したように、自分のObserveは誰かのActionかもしれないのです。配置、色、順番を決めるデザインも、次の人のObserveを作るActionになります。

デザインはOrientへ枠を与える

同じ事実でも、言葉や比較の置き方で意味は変わります。

例えば、あるサービスに月額1,000円かかるとします。

  • 「1日あたり約33円」
  • 「1年間で12,000円」

どちらも計算上は同じです。しかし、前者は小さな日常支出として、後者は年間の負担として受け取りやすくなります。

デザインは、何と何を比べるか、どの期間で考えるか、利益と損失のどちらを前に出すかを決めます。こうした枠組みが、情報の意味づけに影響します。

Orientについては、Orientとは OODAで最も大切な情勢判断で解説しています。

デザインはDecideとActを案内する

選択画面では、次のような設計が決定へ影響します。

  • あらかじめ選ばれている初期設定
  • 「人気」「おすすめ」などの表示
  • 選択肢を並べる順番
  • 残り時間を示す表示
  • 比較表に含める項目

さらに、決めた後のActionも設計されています。

  • どのボタンが押しやすいか
  • 何回の操作が必要か
  • 途中で考え直せるか
  • 取消しや解約が見つけやすいか
  • 間違えたときに元へ戻せるか

申込みは一回で終わるのに、解約には複数の画面や問い合わせが必要なら、始めるActionとやめるActionの難しさは対等ではありません。

決定を完成した答えではなく仮説として扱うには、考え直し、修正し、戻れる余地が重要です。Decideとは 決定は仮説であるもあわせてご覧ください。

デザインは支援にも操作にもなる

注意や行動へ影響すること自体を、すべて悪いものとは言えません。

病院の案内表示が受付まで導くこと、危険な操作の前に確認画面を出すこと、複雑な申請を順番に分けることも、認知へ働きかけるデザインです。

違いを考えるときは、利用者の選択する力が保たれているかを見ます。

選択を支援するデザイン

  • 重要な情報が見つけやすい
  • 利益だけでなく費用や条件も分かる
  • 選択肢を比較できる
  • 間違いを直しやすい
  • 断る、戻る、やめる方法が明確である

選択する力を損なうデザイン

  • 広告を通常の内容のように見せる
  • 追加費用や重要な条件を見つけにくくする
  • 申込みより取消しを極端に難しくする
  • 必要以上に急がせ、考える時間を奪う
  • 個人情報を共有する方向へ誘導する

米国の連邦取引委員会は、このように利用者の選択を覆い隠したり、損なったりする設計をダークパターンとして整理しています。事例には、広告であることを分かりにくくする表示、解約を難しくする手順、費用や条件を埋もれさせる表示、個人情報の共有へ誘導する方法などがあります。詳しくはFTCの報告書で確認できます。

よくある場面をOODAで見る

「残りわずか」という表示

表示が正確なら、判断に必要な情報です。しかし、根拠の分からないカウントダウンが繰り返し元へ戻るなら、緊急性によって比較や確認の時間を減らしている可能性があります。

  • Observe:残り時間が大きく目に入る
  • Orient:今決めなければ損をすると意味づける
  • Decide:比較を終える前に購入を選ぶ
  • Act:目立つ購入ボタンを押す

初期状態で入っているチェック

利用者が選んでいなくても、最初から設定されているものはそのまま受け入れられやすくなります。

  • 何に同意するチェックか
  • 外した場合に不利益があるか
  • 後から変更できるか

一つずつ中立な言葉へ置き換えて確認します。

取消しボタンが見つからない

「取消しできる」と説明されていても、場所が分からず多くの操作を求められれば、実際の選択可能性は低くなります。

存在する選択肢と、現実に実行しやすい選択肢を分けて考えます。

デザインの影響から認知を守る5つの方法

デザインの影響を完全になくすことはできません。必要なのは、影響を受けている可能性に気づき、Orientを更新する時間を作ることです。

【図解挿入:diagram_07_design_cognition.png】

大きさや色がObserve、言葉や文脈がOrient、初期設定がDecide、ボタン配置や手間がActへ影響する図
デザインはOODAの各部分へ働きかけます。影響に気づき、言葉を置き換え、欠けた情報を探すことでOrientを更新できます。

1.反応する前に一度止まる

強い緊急性、恐怖、得をする感覚が生まれたときは、すぐ押さずに画面を離れます。短い間でも、ObserveからActへ直行する流れを切れます。

2.選択肢を中立な言葉へ直す

「おすすめプラン」と「通常プラン」ではなく、費用、期間、機能、解約条件を書き出します。名前や色から離れると比較しやすくなります。

3.目立たない情報を探す

追加費用、自動更新、対象外の条件、個人情報の扱い、取消し方法を確認します。

「何が書かれているか」だけでなく、「判断に必要なのに、どこへ置かれているか」を見ます。

4.初期設定と戻り方を確認する

最初から選ばれている項目を一度外して考えます。Actionの前に、修正、取消し、解約ができるかも確かめます。

5.同じ画面の外で比べる

別の事業者、公式の料金表、第三者の説明など、違う見せ方の情報と比べます。一つのデザインが作った枠の外へ出ることが目的です。

作る側が確認したい6つのこと

デザインを作る側にも、認知へ介入する責任があります。

公開前に、次の点を確認します。

  1. 重要な選択肢が、見つけやすさの面で不当に差をつけられていないか
  2. 結果、費用、条件が、行動する前に理解できるか
  3. 初期設定は利用者の利益と予想に合っているか
  4. 間違いを修正し、選択を取り消せるか
  5. 申込みと同じ程度に、断る、戻る、やめる方法が分かりやすいか
  6. 疲労、焦り、知識不足など、利用者の弱い状態へつけ込んでいないか

短期的に操作を増やせても、利用者が後で「選ばされた」と感じれば、信頼を失います。

よいデザインは、作り手の望むActionだけを増やすものではありません。利用者が状況を理解し、自分の目的に合う選択を修正可能な形で行えるようにします。

ボイドの議論と日常のデザインを分けて考える

ボイドは、競争や対立の中で、相手の知覚や期待へ働きかけ、現実との不一致を作ることを論じました。

ただし、ボイドが現在のウェブサイトやアプリの使いやすさを論じたわけではありません。

本記事は、知覚、Orient、Action、環境の相互作用という考え方を、日常のデザインへ応用したものです。軍事的な議論と、利用者を支援する設計や消費者保護の議論を同一のものとして扱わないよう注意が必要です。

そのうえで共通して学べるのは、見せ方が認知と行動を変えるという点です。

今日使った画面を一つ観察する

今日使った申込み画面、買い物サイト、社内システム、案内表示から一つ選びます。

次の四つを書き出してください。

OODA確認すること
Observe最初に何が目へ入ったか。見つけにくい情報は何か
Orientどの言葉、比較、文脈が意味づけを作ったか
Decide初期設定やおすすめ表示が選択へ影響したか
Act押しやすさ、手間、取消しやすさに差があったか

最後に、そのデザインが自分の理解と選択を支援した点を一つ、選択を狭めた点を一つ挙げます。

目的は、作り手の悪意を推測することではありません。実際の画面が自分のOODAへどう働いたかを観察することです。

デザインの力を見えるようにする

デザインは、私たちの代わりにすべてを決めるものではありません。しかし、何へ気づき、どう意味づけ、どの選択肢へ進みやすいかを変えます。

その働きが見えなければ、作られた流れを自分の自然な判断だと思いやすくなります。働きが見えれば、一度止まり、別の見方を作り、必要な情報を確かめられます。

デザインは認知へ介入します。だからこそ、受け手には見抜く力が、作り手には選択する力を守る責任が必要です。

参考資料

  • John R. Boyd, Patterns of Conflict, sections on shaping perceptions, ambiguity, deception, and mismatches, 1986.
  • John R. Boyd, The Strategic Game of ? and ?, sections on perception, orientation, and interaction with the environment, 1987.
  • John R. Boyd, The Essence of Winning and Losing, “The OODA ‘Loop’ Sketch,” 1995.
  • John R. Boyd, edited by Grant T. Hammond, A Discourse on Winning and Losing, Appendix “The OODA Loop,” pp.383–385, Air University Press, 2018.
  • Federal Trade Commission, Bringing Dark Patterns to Light, 2022.
  • Federal Trade Commission, “FTC Report Shows Rise in Sophisticated Dark Patterns Designed to Trick and Trap Consumers,” 2022.