目の前に表示された数字、会議で配られた資料、スマートフォンへ届いた通知。私たちは、こうしたものをObserveの対象として受け取ります。
しかし、その情報は自然にそこへ現れたのでしょうか。
誰かが数字を選び、資料の順番を決め、通知を送った結果かもしれません。仕組みが自動的に選別したものかもしれません。あるいは、単なる偶然や制約によって見えているだけかもしれません。
自分にとってのObserveが、誰かにとってのActionから始まることがあります。この関係に気づくと、見えたものだけで急いで状況を決めつけにくくなります。
Observeは環境から切り離されていない
Observeは、ただ目を開いて情報を受け取る工程ではありません。
私たちは、すでに誰かが動き、物が置かれ、制度が作られ、言葉が発せられている環境を観察します。自分が見る前に、環境にはさまざまなActionの結果が残っています。
例えば、店頭で目立つ場所に置かれた商品を見たとします。
- 商品がその場所へ自然に移動したわけではない
- 誰かが陳列場所を決めている
- 棚の高さや照明も、目に入りやすさを変える
- 置かれていない商品は、比較の対象に入りにくい
目に入った商品は事実です。しかし、それだけで売場全体や選択肢の全体を見たことにはなりません。
Observeの基本は、Observeとは 見えているものがすべてではないで解説しています。
Actionは次のObserveを作る
ボイドの最終的なOODA図では、Actionは外で展開する状況や環境へ働きかけます。その結果は再び観察され、次のOrientへ入ります。
この関係を人と人の間へ広げると、次のように考えられます。

人物Aが発言する、資料を作る、商品を並べる、ボタンを配置する。そのActionが環境を変え、人物BのObserveになります。
人物Bが反応すれば、それも環境を変えます。今度はBのActionが、AのObserveになります。
一方が見せ、一方が受け取るだけではありません。互いの行動が、互いにとっての観察対象を作り続けます。
見えた情報には3つの由来がある
情報の背後に誰かのActionがあると知っても、何もかもを意図的な操作と考える必要はありません。
まず、見えたものの由来を三つに分けます。
1.誰かが意図して見せた
相手が目的を持って、情報を選び、表現し、届けた場合です。
- 会議で成果を説明するために指標を選ぶ
- 商品の魅力を伝えるために写真を選ぶ
- 危険を知らせるために警告を目立たせる
意図があること自体は、悪いことではありません。伝えるには選択と編集が必要です。
確認したいのは、どの目的で、どの情報が選ばれたかです。
2.仕組みや制約によって見えるものが決まった
個人が一つずつ選んでいなくても、システム、制度、画面の仕様、時間、予算などが見える範囲を決めます。
- 一覧画面に上位10件だけ表示される
- 報告書の書式にない項目は共有されない
- 会議時間が短く、結論だけが説明される
- 測定できるものだけが数値になる
誰かの悪意を探すより、どの仕組みが情報を通し、どの情報を落としているかを調べる方が役立ちます。
3.偶然や未整理の結果として見えた
予定外の出来事、伝達の遅れ、単純なミスによって情報が現れたり、欠けたりすることもあります。
一つの表示や発言だけから意図を断定すると、自分のOrientをかえって狭くします。
「意図的かもしれない」と考えるのと、「意図的に違いない」と決めるのは別です。
職場の数字を例に考える
ある部署から「今月の問い合わせ件数は20%減りました」という報告が届いたとします。
これは観察できる情報です。しかし、意味を判断する前に、その数字が作られた過程をたどります。
- 誰が、何の目的で集計したか
- 問い合わせの定義は前月と同じか
- 電話、メール、窓口など、どの経路を含むか
- 解決までの時間や再問い合わせはどうなったか
- 利用者が問い合わせを諦めた可能性はないか
件数の減少は、問題の解決を示しているかもしれません。一方で、窓口が見つけにくくなった結果かもしれません。
報告者が事実を隠していると決めつける必要はありません。報告の目的や書式が、一つの数字を前面に出した可能性もあります。
大切なのは、数字を疑って捨てることではなく、その数字が説明できる範囲を見極めることです。
画面に表示される情報も選ばれている
ニュース一覧、検索結果、動画の候補、買い物サイトの商品一覧。画面には、すべての情報が同じ大きさ、同じ順番で並ぶわけではありません。
表示する側は、情報を絞り、順序を決めなければなりません。自動的な仕組みが使われていても、何を基準に並べるかという設計があります。
そこで、画面を見たときは次の二つを分けます。
- 実際に表示されている内容
- なぜそれが表示されたかについての自分の推測
推測を事実として扱わなければ、必要に応じて別の検索、別の画面、別の情報源で確かめられます。
沈黙も、意味づけには注意が必要
会議で提案したのに、誰も質問しなかったとします。
「全員が賛成した」と感じるかもしれません。「関心を持たれていない」と感じる人もいるでしょう。
しかし、観察できた事実は「その場で質問が出なかった」ことです。
沈黙の理由には、賛成、反対、遠慮、時間不足、理解不足、発言しにくい雰囲気など、複数の可能性があります。沈黙は観察できますが、その意味はOrientで作られます。
相手のActionが見えないときほど、自分の解釈だけで空白を埋めやすくなります。
Observeを入口までたどる4つの問い
情報を見たとき、次の四つを確認します。
1.誰が、または何が見えるようにしたか
発信者だけでなく、集計方法、画面、制度、会議の進め方も含めます。
2.何が見えていないか
省かれた比較対象、測定されていないもの、参加していない立場、時間の範囲を探します。
3.どのような反応へ進みやすいか
その情報を見た直後、自分は何を感じ、何を選び、何をしたくなったかを言葉にします。
反応を促す意図があったかどうかとは別に、実際にどの方向へ注意や行動が向いたかを確認します。
4.別の方法でどう確かめられるか
原資料を見る、定義を聞く、別の期間と比べる、違う立場の人へ尋ねる、小さく試すなど、確認できるActionへ変えます。
自分のActionも、誰かのObserveになる
この視点は、自分を情報から守るためだけのものではありません。
自分が作る資料、送るメッセージ、選ぶ数字、会議での表情も、誰かのObserveになります。
伝えるときは、相手が何を見るかを考えます。
- 結論だけでなく、前提や不確実性も見えるか
- 比較に必要な情報が欠けていないか
- 何が事実で、何が自分の解釈か分かるか
- 質問や修正ができる余地があるか
Actionを仮説の検証として扱う考え方は、Actとは 行動は仮説の検証であるで解説しています。
5分でできる観察練習
今日見た情報を一つ選びます。通知、広告、報告書、会話、数値のどれでも構いません。
次の順に一行ずつ書いてください。
- 実際に見た、聞いた、測ったもの
- その情報を見えるようにした人、仕組み、条件
- 見えていない可能性があるもの
- 自分が最初にした意味づけ
- 別の説明を一つ
- 必要なら、次に確かめる方法
この練習の目的は、すべてを疑うことではありません。Observeと自分の解釈を分け、Orientを更新できる余地を作ることです。
意味づけの働きは、Orientとは OODAで最も大切な情勢判断で詳しく説明しています。
見えたものの手前にあるActionを見る
Observeは、透明な窓から世界をそのまま見ることではありません。
その窓の前では、誰かが動き、仕組みが情報を選び、自分もまた環境へ働きかけています。
目に入ったものを事実として丁寧に扱いながら、それがどのように現れ、何が見えていないかを確かめる。そうすれば、情報を無条件に信じることと、何も信じないことの間に立てます。
次は、その見え方を強く左右するデザインについて、デザインは認知への攻撃であるで考えます。
参考資料
- John R. Boyd, The Essence of Winning and Losing, “The OODA ‘Loop’ Sketch,” 1995.
- John R. Boyd, Organic Design for Command and Control, sections on orientation, interaction, and unfolding circumstances, 1987.
- John R. Boyd, The Strategic Game of ? and ?, sections on interaction with the environment and perception, 1987.
- John R. Boyd, edited by Grant T. Hammond, A Discourse on Winning and Losing, Appendix “The OODA Loop,” pp.383–385, Air University Press, 2018.