入門3記事の2本目。 Orientが観察・判断・行動を形づくる中心であることを、空模様と5つの要素から学ぶ。3記事の読む順番はこちら。
前の記事では、OODAループを次のように説明した。
見る → 考える → 決める → 動く
Orient(オリエント)は、この中の「考える」に当たる。
ただし、ここでいう「考える」とは、難しい問題を時間をかけて解くことだけではない。見たものを自分の経験や知識などと結びつけ、「自分はいま、どのような状況にいるのか」を捉える働きである。
Orientとは、見たものが自分にとって何を意味するかを捉える働きである。
OODAループの全体像を先に確認したい場合は、OODAループとは?から読むとよい。
同じ空を見ても、判断は分かれる
朝、三人が同じ黒い雲を見たとする。
- 徒歩で長く移動する人は、折り畳み傘を持つ
- 車で近所へ行く人は、傘を持たずに出かける
- 屋外行事の担当者は、開始時間や場所を見直す
三人が見た空は同じである。しかし、その空が自分にとって何を意味するかは同じではない。
| 人 | 黒い雲の意味 | 選ぶ行動 |
|---|---|---|
| 徒歩で移動する人 | 帰りに濡れるかもしれない | 傘を持つ |
| 車で近所へ行く人 | 雨が降っても影響は小さい | そのまま出かける |
| 屋外行事の担当者 | 安全や進行へ影響するかもしれない | 時間や場所を見直す |
黒い雲が、直接行動を決めているわけではない。
「雨が降りそうだ」「濡れると困る」「予定に影響するかもしれない」と、黒い雲をどのような状況として受け取ったかによって、次の行動が変わる。
この違いを生むのがOrientである。
Orientをつくる5つの要素
では、なぜ同じものを見ても、受け取る意味が違うのだろうか。
ジョン・ボイドが示したOODAの最終図では、Orientの中に次の五つの要素が描かれている。
- 遺伝的特質
- 過去の経験
- 文化的伝統
- 新しい情報
- 分析と統合
1.遺伝的特質
人が生まれ持った身体や感覚、反応の土台である。
たとえば、寒さや濡れる不快さをどの程度強く感じるかには個人差がある。こうした違いも、状況の受け取り方に影響する。
2.過去の経験
これまでの成功、失敗、練習、記憶である。
以前、急な雨で困った経験があれば、黒い雲を見たときに早めに傘を準備するかもしれない。反対に、予報が外れて傘が荷物になった経験が多ければ、持たないと考えることもある。
3.文化的伝統
家庭、学校、地域、社会、組織などで身につけた常識や価値観である。
「雨に備えて傘を持つ」「多少の雨なら気にしない」など、周囲から学んだ習慣も判断の土台になる。
4.新しい情報
いま外から入ってくる情報である。
黒い雲、風の変化、天気予報、雨雲レーダーなどが当てはまる。新しい情報が加われば、それまでの見方が変わることもある。
5.分析と統合
複数の情報を分けて確かめ、互いに結びつけ、状況の見方をつくる働きである。
黒い雲だけでなく、天気予報、移動手段、外にいる時間、荷物などを合わせて考えることで、「今日は折り畳み傘を持って行こう」という判断につながる。
5つの要素は順番に並ぶ工程ではない
五つの要素は、一つずつ順番に処理する手順ではない。
黒い雲を見た瞬間にも、過去の経験や身につけた習慣が働く。そこへ天気予報という新しい情報が加わり、今日の予定や移動手段と結びついて、現在の状況の見方がつくられる。
五つの要素は互いに影響しながら、その人なりのOrientをつくっている。
そのため、同じ空を見ても、誰もが同じ意味を受け取り、同じ行動を選ぶとは限らない。
Orientが違えば、選ぶ行動も変わる
人は、見たものにそのまま反応しているのではない。
自分の身体的な傾向、文化、経験、新しい情報などをもとに、「これは自分にとってどのような状況か」と捉え、その見方から次の行動を選んでいる。
したがって、自分と違う行動をした人が、必ずしも間違っているとは限らない。その人には、同じ状況が別の意味に見えているのかもしれない。
Orientを知る第一歩は、次のように考えることである。
自分は、見たものをどのような状況だと受け取ったのか。
この問いによって、事実そのものと、自分が加えた意味を分けて振り返りやすくなる。
まとめ
Orientとは、見たものが自分にとって何を意味するかを捉える働きである。
Orientは、次の五つの要素から形づくられる。
- 遺伝的資質 身体や感覚、反応の土台
- 過去の経験 これまでの成功、失敗、練習、記憶
- 文化的伝統 周囲から学んだ常識や価値観
- 新しい情報 いま外から入ってくる情報
- 分析と統合 情報を分け、結びつけ、状況の見方をつくる働き
最初から詳しく覚える必要はない。
人によって、経験や身につけた考え方、いま持っている情報が違う。そのため、同じものを見ても受け取る意味が違う。
まずは、この理解で十分である。
次の記事では、今回使った「空・雨・傘」の場面を詳しくたどり、Observe、Orient、Decide、Actがどのようにつながるのかを見ていく。
次に読む
まずは入門3本目へ進み、Orientと観察・決定・行動の関係を具体例で確かめよう。
- 3.OODAループの具体例|「空・雨・傘」で4つの流れを理解する — 事実と意味づけ、決めたことと実際の行動を分けて読む。
- さらに詳しく:Orientとは?|意味づけがOODA全体を形づくる理由 — 入門3記事を読んだ後に、信号の例でObserveとの違いやDecideへのつながりを掘り下げる。
参考資料
- John R. Boyd, The Essence of Winning and Losing, 1995, “The OODA ‘Loop’ Sketch.”
- John R. Boyd, edited by Grant T. Hammond, A Discourse on Winning and Losing, Air University Press, 2018, Appendix “The OODA Loop.”
本記事では、ボイドがOrientの内部に示した五つの要素を、初めて学ぶ人が身近な判断から理解できるように簡略化して説明している。