SNSに操られる人、されない人|OODAで思考の主導権を取り戻す

SNSは、友人や社会とつながり、知識を得て、自分の考えを発信できる強力な道具である。その一方で、何を見るか、何に怒るか、何を信じるか、次に何を開くかを絶えず提案する環境でもある。

SNSに操られない人とは、外部から何の影響も受けない人ではない。自分が何を見せられ、どのように意味づけ、なぜ反応しようとしているのかを点検し、必要なら行動を選び直せる人である。

OODA-LOOPの視点から考えると、SNSの問題は単なる「使いすぎ」ではない。自分のObserveがどのようにつくられ、Orientがどの方向へ導かれているかに気づかないまま、反射的なActionを繰り返すことにある。

SNSでは「何を見るか」がすでに選ばれている

現実の世界では、自分の目や耳を通して周囲を観察する。一方、SNSで目にする情報は、現実をそのまま映したものではない。

誰かが投稿する内容を選び、他の利用者が反応し、プラットフォームの推薦システムが表示する情報と順番を選んでいる。その結果としてつくられた画面を、自分は観察している。

情報をつくる側相手のAction自分のObserveに入るもの
投稿者題材、言葉、画像、見出し、切り取り方を選ぶ投稿として表現された一部の情報
他の利用者「いいね」、共有、保存、コメントなどで反応する反応数、評判、話題になっているように見える状態
プラットフォーム投稿の表示順位やおすすめを調整する自分の画面に現れる情報の範囲と順番
広告主届けたい相手と訴求内容を選ぶ自分向けに構成された広告や提案
自分閲覧、検索、共有、購入、離脱などを行う自分の反応を踏まえて変化した次の表示

つまり、SNS上のObserveは自分だけでつくっているのではない。複数の人や仕組みのActionによって、観察できる範囲そのものが構成されている。

本サイトでは、この関係を「自分のObserveは、誰かのActionである」と表現している。これはボイドがそのまま述べた言葉ではなく、OODA-LOOPにおける環境との相互作用を、本サイトがSNSへ応用した見方である。

「影響を受けること」と「操られること」は同じではない

人は、SNSを使っていなくても他者や環境から影響を受ける。家族、学校、職場、ニュース、広告、過去の経験なども、自分の見方を形づくっている。したがって、外部から影響を受けること自体をなくすことはできない。

問題は、影響を受けていることに気づかず、提示された情報を現実の全体だと思い込み、最初に生じた感情や解釈を自分の意思と取り違えることである。

状態情報との関わり方
影響を受けている外部の情報によって注意、感情、考え方が変化している
操られやすい情報が選ばれていることに気づかず、最初の解釈のまま反応する
主導権を保っている影響を認識し、解釈を点検したうえで自分のActionを選び直す

操られないとは、どの情報も疑って動かなくなることではない。自分の目的と現実に照らして、受け入れる情報、保留する情報、確認する情報を選べる状態である。

OODAで見るSNSの影響の仕組み

OODAは、Observe、Orient、Decide、Actの頭文字を取ったものである。SNSを利用しているときの流れは、次のように整理できる。

OODASNSで起きること確認すべきこと
Observe
観察
投稿、動画、反応数、コメント、おすすめを目にする自分は何を見せられているか
Orient
方向づけ・意味づけ
情報を過去の経験、価値観、感情、知識と結びつける自分は何を意味すると解釈したか
Decide
決定
続きを読む、信じる、反論する、共有する、購入するなどを選ぶ何のために、その行動を選ぶのか
Act
行動
閲覧、共有、コメント、フォロー、購入、離脱などを実行するその行動は次の環境をどう変えるか

例えば、強い怒りを誘う短い動画が表示されたとする。動画を見たことがObserveであり、「これは許せない」「この人物は間違っている」と意味づける働きがOrientである。その解釈に基づいて共有を決め、実際に拡散する。

自分が視聴や共有を行えば、そのActionは他の利用者にとってのObserveになる。また、自分の反応が次の表示を調整する材料になれば、自分の観察環境も変化する。似た内容が増えることで、さらに同じ解釈が強化される場合がある。

このように、SNSでは一度のOODAで終わらない。自分、投稿者、他の利用者、プラットフォームが相互に影響しながら、次の情報環境をつくっている。

OODA-LOOPの中心はOrientである

Observeした情報から、自動的に一つの結論が生まれるわけではない。同じ投稿を見ても、信じる人、疑う人、怒る人、関心を持たない人がいる。違いを生むのがOrientである。

Orientは、観察の仕方、決定の仕方、行動の仕方を形づくる。

John R. Boyd, The Essence of Winning and Losing(要旨)

ボイドの最終OODA図では、Orientを形づくる要素として、遺伝的背景、文化的伝統、過去の経験、新しい情報、分析と統合が示されている。

Orientを形づくる要素SNSでの例
遺伝的背景刺激に対する反応や注意の向き方に関係する個人差
文化的伝統社会、家庭、所属集団で共有されている価値観
過去の経験成功、失敗、人間関係、過去に見聞きした情報
新しい情報現在表示されている投稿、動画、コメント、反応数
分析と統合情報を分けて確かめ、他の知識と組み合わせて捉え直す働き

SNSが直接、自分のOrientのすべてを支配するわけではない。しかし、観察できる情報の範囲を狭めたり、特定の感情を繰り返し刺激したりすることで、Orientへ間接的に影響を与えることはできる。

特に注意したいのは、次のような状態である。

  • 短い情報だけで、出来事の全体を理解したと感じる
  • 同じ主張を何度も見たため、正しいと感じる
  • 反応数が多いため、社会全体の多数意見だと考える
  • 怒りや不安が強いため、今すぐ反応しなければならないと感じる
  • 自分と同じ意見ばかりが表示され、反対意見には根拠がないと思う

これらは、Observeした情報が間違っていると断定するものではない。限られた観察からつくったOrientを、現実の全体と取り違えやすい状態なのである。

表示頻度と社会全体の頻度は同じではない

短い動画を一つ見たあと、似た主張の動画が続けて表示されたとする。同じ意見を何度も目にすると、「多くの人がこのように考えている」「社会ではこれが常識になっている」と感じることがある。

しかし、自分の画面に表示される頻度と、社会全体に存在する意見の割合は同じではない。自分の関心や過去の反応に合わせて選ばれた情報が増えているだけかもしれない。

ここで事実として観察できるのは、「似た投稿が自分の画面に続けて表示された」ということである。「社会の多数が同じ意見である」という結論は、その事実に対して自分が加えた解釈である。

ObserveとOrientを分けて考えるだけでも、情報に対する距離を取り戻しやすくなる。

一つの投稿をOODAで捉え直す

「ある食品を食べるだけで体調が劇的に改善する」という短い動画が表示された場面を考えてみる。動画には強い言葉が使われ、多くの反応も付いている。

OODA反射的に反応する場合主導権を取り戻す場合
Observe印象的な体験談と多くの反応を見る動画の内容、発信者、投稿日、根拠として示された情報を分けて見る
Orient「これほど反応があるなら本当だ」と意味づける体験談と一般的な効果は同じではないと捉え直す
Decideすぐに購入し、家族にも共有すると決める一次情報や他の資料を確認してから判断すると決める
Actその場で購入・共有する保存して画面を閉じ、別の経路から情報を調べる

重要なのは、最初の動画を必ず否定することではない。最初に生じたOrientを確定した答えにせず、別の情報によって検証できる仮説として扱うことである。

ボイドの最終OODA図では、Decisionは「Hypothesis」、Actionは「Test」と表現されている。決定は絶対的な正解ではなく、現在の情報からつくった仮説である。行動とその結果を通じて、仮説が現実に合っているかを確かめる。

思考の主導権を取り戻す六つの方法

1.開く前に目的を決める

SNSを開く前に、「友人からの連絡を確認する」「投稿を一つ作成する」「電車の時刻まで休憩する」など、利用目的を一つ決める。

目的がなければ、次に表示された情報が自分の次の行動を決めやすくなる。自分で目的を決めることは、Decideの主導権を先に確保することである。

2.事実と解釈を分ける

「この投稿には一万件の反応がある」は観察できる事実である。一方、「一万人が内容の正しさに賛成している」は解釈である。反応した理由は、賛成、驚き、批判、娯楽など、さまざまに考えられる。

強い結論が浮かんだときほど、「実際に確認できたこと」と「自分が加えた意味」を分けて書き出すとよい。

3.感情を命令ではなく情報として扱う

怒り、不安、焦り、興奮などの感情は、自分のOrientに何かが強く作用していることを知らせる情報である。しかし、感情が生じたからといって、すぐに共有、反論、購入を実行しなければならないわけではない。

強い感情を覚えたときは、「なぜ自分はこれに反応したのか」「過去のどの経験や価値観と結びついたのか」を確認する。感情を否定するのではなく、その感情が生まれたOrientを観察するのである。

4.観察窓を意識的に広げる

おすすめ欄の中だけで確認を続けると、同じ範囲の情報を回り続ける可能性がある。発信元、投稿日、元の資料、前後の文脈、異なる立場からの説明を、SNSの外も含めて確認する。

  • 元の発言や資料までさかのぼる
  • 情報が発信された日時を確認する
  • 切り取られる前後の文脈を確認する
  • 反対の結論を示す情報も探す
  • 自分の考えが誤りだとすれば、何が見つかるはずかを考える

これは、反対意見を必ず採用するという意味ではない。現在のOrientを点検できるだけの情報を、観察窓の外から取り入れるためである。

5.「すぐには行動しない」ことも選択肢にする

SNSでは、共有する、返信する、購入するという行動が目立つ。しかし、保存する、保留する、確認する、閉じる、何もしないという選択肢もある。

反応を遅らせることは、OODAを止めることではない。Orientを更新するための時間と情報を確保するActionである。

6.自分の情報環境を設計し直す

意志の力だけで毎回立ち止まることには限界がある。通知を減らす、おすすめ欄を開く回数を決める、利用終了時刻を置く、信頼できる情報源へ直接アクセスするなど、自分が観察する環境そのものを整える。

SNSの設計が自分のObserveに作用するのであれば、自分も設定や利用方法を変えることで、次のObserveをつくり直せる。

投稿・共有の前に確認するOODAチェック

強く反応したくなる情報に出会ったときは、次の問いを確認するとよい。

段階確認する問い
Observe実際に確認できた事実は何か。誰が、どのような意図で、この情報を提示した可能性があるか。見えていない情報は何か。
Orientなぜ自分は信じたい、怒りたい、共有したいと感じたのか。事実と自分の解釈を混同していないか。別の意味づけは可能か。
Decide自分の目的は何か。今すぐ行動する必要があるか。確認、保留、離脱を含め、どの選択が目的に合うか。
Actこの共有、返信、購入は、自分と他者の次の情報環境をどう変えるか。結果をどのように確認するか。

四つの問いを毎回長時間考える必要はない。まずは、強い感情が生じたときや、他者へ情報を広げる前だけでもよい。立ち止まる場面をあらかじめ決めておけば、反射的なActionを減らしやすくなる。

SNS利用を振り返り、Orientを更新する

自分の情報環境がどのように変化しているかは、利用中には気づきにくい。週に一度でも、SNSを利用した結果を振り返るとよい。

  • 最近、繰り返し表示される話題は何か
  • その話題を見る前と後で、自分の感情や考え方はどう変化したか
  • どのような投稿を反射的に開きやすいか
  • 共有、コメント、購入のあと、表示内容はどう変化したか
  • SNSを開いた目的を達成できたか
  • 利用後に、満足、疲労、怒り、不安のどれが残ったか

振り返りの目的は、自分を責めることではない。自分がどの刺激に反応し、どのようなOrientをつくりやすいかを知り、次の情報環境を改善することである。

思考の主導権を失いやすい五つの誤解

  • 自分は情報を客観的に見ている
    観察した瞬間から、過去の経験や価値観による意味づけが始まっている。
  • 多く表示される意見は多数意見である
    自分の画面における表示頻度と、社会全体における割合は区別する必要がある。
  • 反応数が多ければ内容も正しい
    注目を集めたことと、主張が事実に合っていることは同じではない。
  • 反対意見を見れば中立になれる
    賛成と反対を一つずつ見ただけで全体を把握できるとは限らない。根拠と文脈を比較する必要がある。
  • SNSをやめれば問題は解決する
    外部からの影響はSNS以外にも存在する。必要なのは、情報と自分のOrientの関係を点検する習慣である。

SNSを悪者にするだけでは主導権を取り戻せない

SNSには、遠くの人とつながる、専門家の発信から学ぶ、作品や考えを届ける、少数の経験を社会へ伝えるなどの価値がある。完全に離れることだけが答えではない。

問題は、設計された情報環境を自然な世界そのものだと思い込み、目的を持たないまま反応し続けることである。

利用するか、利用しないかという二択ではなく、何のために開き、何を観察し、どのように意味づけ、どのActionを選ぶかを自分で決める。その状態が、思考の主導権を持ってSNSを利用するということである。

ボイドの原典と本記事の解釈を区別する

ボイドの原典は、主に戦争、組織、指揮統制、環境への適応を扱ったものであり、SNSの利用方法を直接説明したものではない。本記事では、原典に示されたOODA-LOOPの構造を、現代の情報環境へ応用している。

ボイドの原典に基づく説明

  • OrientがObserve、Decide、Actのあり方を形づくること
  • Orientが遺伝的背景、文化的伝統、過去の経験、新しい情報、分析と統合によって形成されること
  • Orientも、環境との相互作用から得られるフィードバックによって形づくられること
  • Decisionを仮説、Actionをテストとして捉えること
  • 変化する現実に対応するため、現実についての概念や見方を組み替え続ける必要があること

本記事および本サイトによるSNSへの応用

  • 「自分のObserveは、誰かのActionである」という表現
  • 投稿者、利用者、プラットフォーム、広告主のActionが観察環境を構成するという整理
  • SNSに操られない状態を「影響を認識し、自分のActionを選び直せる状態」と定義すること
  • 利用目的、終了条件、情報確認、通知設定、利用後の振り返りによって主導権を取り戻す方法

これらは、ボイドがSNS利用者向けに提示した方法ではない。OODA-LOOPの原理を現代のSNSへ適用した、本記事および本サイトの解釈である。

まとめ

SNSに操られる人と操られない人の違いは、外部から影響を受けるかどうかではない。自分が何を見せられ、どのように意味づけ、どの行動へ導かれようとしているのかを点検できるかどうかにある。

  • SNS上のObserveは、投稿者やプラットフォームなどのActionによって構成されている
  • 同じ情報を見ても、Orientによって意味づけと行動は変わる
  • 自分の画面における表示頻度と、社会全体の頻度は同じではない
  • 感情は反応を命じるものではなく、Orientを点検するための情報である
  • 確認、保留、離脱、何もしないことも、自分で選べるActionである
  • 利用目的と情報環境を自分で設計することで、次のObserveを変えられる

思考の主導権は、SNSを使うか使わないかだけで決まるものではない。何のために開き、何を事実として受け取り、どのように意味づけ、どのActionを自分で選ぶかに宿るのである。

参考文献

  • John R. Boyd, Destruction and Creation, 1976.
  • John R. Boyd, Organic Design for Command and Control, 1987.
  • John R. Boyd, The Essence of Winning and Losing, 1995.