情報をたくさん集めても、状況が理解できないことがあります。
一つひとつの数字や出来事は分かっているのに、それらが何を意味するのか見えない。反対に、分かりやすい説明を持っていても、現実の変化に合わなくなることがあります。
OODAループ最終図のOrientには、Analyses & Synthesisと書かれています。
分析と統合です。
これは情報を整理する補助作業ではありません。現実と自分の理解のずれに対応し、Orientそのものを作り直す中心的な働きです。
分析は「細かく調べること」だけではない
分析とは、まとまりとして見えているものを要素や関係へ分けることです。
たとえば、「この会議はうまくいかなかった」という説明を、そのまま結論にしないで分けてみます。
- 目的は共有されていたか
- 必要な情報は事前に届いていたか
- 誰が決めるか明確だったか
- 意見を出せる順番だったか
- 時間の使い方は適切だったか
- 結論と次の行動は残ったか
一つの評価を分解すると、問題の場所が見えます。
さらに重要なのは、それまで当然だと思っていた関係をいったん外すことです。
「会議が長いのは参加者が多いからだ」という説明を持っているなら、参加人数と時間の関係を切り離し、別の要因を検討します。
分析には、古い説明をほどく働きがあります。
統合は「元どおりに戻すこと」ではない
統合とは、分けた要素を同じ形へ戻すことではありません。
異なる領域や経験から取り出した要素の間に、新しいつながりを見つけ、別の全体像をつくることです。
先ほどの会議であれば、次のような要素を組み合わせられます。
- 目的は開始時に一文で確認する
- 事実共有と意思決定を分ける
- 決める人と相談する人を明確にする
- 反対意見を先に聞く時間を置く
- 終了時に次のActionと見直し条件を残す
これらを結びつけると、「全員がすべてを話す会議」から「目的に沿ってOrientをそろえ、次のActionを決める会議」へ見方が変わります。
統合は、要素を足し合わせるのではなく、新しい意味をつくる働きです。
『Destruction and Creation』の破壊と創造
ボイドは1976年の『Destruction and Creation』で、演繹、分析、分化によって既存の領域をほどき、帰納、統合、結合によって新しい概念をつくる過程を論じました。
ここでいう破壊は、物を壊すことではありません。
既存の概念と、その構成要素の結びつきをいったん外すことです。
古い枠組みから取り出した要素を、別の領域の要素と結び直すことで、以前にはなかった概念をつくります。
つまり、創造の前には、既存の見方を分解する過程があります。
「正しい答えを知る」ことより、「答えをつくっていた前提を組み替える」ことが重要になります。
現実とのずれが学び直しを始める
私たちの頭の中にある説明は、現実そのものではありません。
過去の観察、経験、文化、知識からつくられた像です。
環境が変化すれば、頭の中の像と現実の間にずれが生まれます。
- 以前は売れた商品が売れなくなった
- 成功していた教え方が新しい人には合わない
- 慣れた手順で、別の種類のミスが起きる
- チームの成長に管理方法が追いつかない
このずれは、不快です。自分の知識や経験を否定されたように感じることもあります。
しかし、OODAでは、ずれは学習の失敗ではなく、学び直しの入口です。
『Conceptual Spiral』の終わらない学習
『Conceptual Spiral』でボイドは、分析と統合、現実との不一致、再方向づけが繰り返される過程を示しました。
分析によって複数の見方を要素へ分け、統合によって新しいパターンをつくる。それを現実で試すと、再び一致と不一致が見つかります。
その結果を使ってOrientを合わせ直します。
この過程は、一度正解へ到達して終わるものではありません。
現実も、自分の行動も、他者の行動も、新しい変化を生み続けるからです。
ボイドは、この概念的な螺旋を、Learning、Unlearning、Relearningとも結びつけました。
Learning・Unlearning・Relearning
Learning 新しい関係を知る
これまで見えていなかった事実、関係、方法を学びます。
Unlearning 適用できない前提を手放す
知識を忘れることではありません。以前の方法が有効だった条件と、現在は使えない条件を分けます。
Relearning 現在の状況に合わせて組み直す
新しい情報と過去の経験を結びつけ、次に使える見方や行動へ再構成します。
三つは一直線の段階ではありません。試すたびに行き来します。
分析だけが続くと動けなくなる
分析は必要ですが、分解だけを続けると、要素が増え、全体の意味が失われます。
次の状態は、分析が目的になっています。
- 情報を追加しても判断基準が変わらない
- 調べる範囲が広がり続ける
- 例外をすべて把握するまで動けない
- 問題を細分化したが、次の行動がない
- 説明は詳しいが、何を試すか決まらない
分析の目的は、完全な情報を得ることではありません。
現在の見方をほどき、新しい仮説をつくる材料を得ることです。
統合だけが先行すると決めつけになる
一方で、十分に観察し、分解する前に分かりやすい物語へまとめると、都合の悪い情報が消えます。
- 原因を一人の性格へまとめる
- 成功を一つの方法だけで説明する
- 相関を因果関係と決める
- 例外を「特殊なケース」として捨てる
- 結論に合う事実だけをつなぐ
よい統合は、複雑さを隠すことではありません。
何を残し、何を捨て、どの関係を仮説として結んだかを明らかにします。
15分で行う分析と統合
身近な問題でも、次の順番で試せます。
1.現在の説明を一文にする
「なぜこうなっていると思うか」を書きます。
2.事実・解釈・前提へ分ける
見聞きした事実、そこから考えた意味、当然だと思っている条件を分けます。
3.反対の事実を探す
現在の説明では理解しにくい例を探します。
4.別の領域から要素を借りる
似た問題を、別の仕事、スポーツ、学習、自然、他の組織ではどう扱っているか考えます。
5.新しい仮説を一つつくる
すべてを説明する理論ではなく、次に確かめられる小さな見方をつくります。
6.Actionで試す
期待する結果と、見直す条件を決めて実行します。
学び直しは過去を否定することではない
以前の見方が現在に合わなくなっても、過去の判断がすべて間違いだったとは限りません。
その方法が役立った条件が変わった可能性があります。
学び直しでは、知識を「正しい・間違い」の二つに分けず、適用範囲を確認します。
- どの条件で役立ったか
- 何が変わったか
- どこまでは今も使えるか
- 何を追加・修正するか
こう考えると、経験を守ることと、新しい情報を受け入れることを両立できます。
Orientは完成品ではない
Orientは、一度つくった世界観を保存する場所ではありません。
観察、経験、新しい情報、文化、分析と統合が相互に働き、変化し続ける過程です。
分析によって古い結びつきをほどき、統合によって新しい関係をつくり、Actionで現実と照合する。
ずれが見つかれば、もう一度学び直す。
OODAの学習とは、正解を増やすことより、現実に合わなくなったOrientを作り直せることなのです。
原典・参考資料
- John R. Boyd, Destruction and Creation, 3 September 1976.
- John R. Boyd, Conceptual Spiral, August 1992. Analyses/Synthesis、Mismatch、Reorientationに関するスライド。
- John R. Boyd, The Essence of Winning and Losing, 28 June 1995.
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